AI説明責任とAI説明可能性は何が違うのか――「理解」と「検証」は別問題である
- kanna qed
- 2025年12月31日
- 読了時間: 4分
AIのPoC(概念実証)はスムーズに通るのに、いざ本番導入となると法務やリスク管理部門でストップがかかる。こうした事態が後を絶ちません。「説明できるAI(Explainability)」を導入して判断の根拠を可視化しているはずなのに、なぜブレーキがかかるのか。
原因は単純です。「人間が理解できること」と「組織として責任を果たせること」は、全く別の問題だからです。
この両者を混同している限り、AIの社会実装は最後の壁を越えられません。本稿では、この「説明可能性」と「説明責任」の決定的な違いを明確にし、本番導入に必要な条件を整理します。

AI説明責任とAI説明可能性の違いとは何か
まず、混同を断ち切るために定義を固定します。
AI説明可能性(Explainability): 判断の理由を人間が理解するための「技術」
AI説明責任(Accountability): 事故後に第三者が妥当性を検証できる形で判断を固定する「構造」
一言で言えば、**「説明=納得」であり、「責任=検証」**です。納得感がある説明ができたとしても、それが事後的に検証不能であれば、責任は成立しません。
1枚で分かる:Explainability と Accountability の対比表
両者の違いを、6つの軸で比較します。
比較軸 | AI説明可能性(Explainability) | AI説明責任(Accountability) |
目的 | 判断の理由を人間が理解する | 事故後に第三者が妥当性を検証する |
対象 | 内部ロジック(なぜこの出力?) | 判断の妥当性(当時、正当だったか?) |
時間軸 | 開発・運用中(デバッグ・改善) | 事故後・紛争時(事後証明) |
主体 | 開発者・運用者 | 第三者(監査・法務・裁判所) |
出力 | 理由・寄与度・説明文(SHAP等) | 証拠・再計算・PASS/FAIL |
失敗時の帰結 | デバッグが困難 | 責任が蒸発(組織が守れない) |
なぜ Explainability があっても「責任」は成立しないのか
説明可能性ツール(SHAPやLIMEなど)を導入しても、それだけでは「責任」を果たせない理由は3点に集約されます。
1) Explainability は「物語」を生成できてしまう
説明ツールが出力するのは、あくまで「その時、AIがどこを重視したか」という統計的な寄与度です。これは人間にとって「もっともらしい物語」になりますが、その物語が真実(判断の正当性)を射抜いているかは別問題です。
事例:犯罪再犯予測AI「COMPAS」の議論 説明ツールで「なぜそのスコアになったか」を提示できたものの、後に人種バイアスが指摘されました。裁判において「当時の判断が法的に妥当だったか」を第三者が独立して検証する仕組みが不十分であったことが、責任の所在を曖昧にする一因となりました。
2) Explainability は「第三者再計算」を保証しない
SHAP等のスコアは、計算時のモデルの状態や入力データが完全に固定されていなければ再現できません。事故が起きた数ヶ月後に「当時の状況」を完全に再現できなければ、どんな説明も「後付けの言い訳」と見なされるリスクを孕んでいます。
3) Explainability は「境界」を決めない
説明可能性は「なぜそうなったか」を語りますが、「どこまでが許容範囲か」という責任境界を定義しません。
事例:Apple Cardのバイアス問題 アルゴリズムが女性に対して低い限度額を設定した際、企業側は「性別は入力していない」と説明(Explainability)しましたが、規制当局の調査では「なぜその結果が正当と言えるのか」という検証可能性(Accountability)の欠如が焦点となりました。境界が曖昧なままでは、「想定外だった」という主張による責任回避を許容してしまいます。
AI説明責任が要求する最低条件(Commit / Ledger / Verify)
AI説明責任を成立させるには、以下の3つの要素が不可欠です。
Commit(固定): 責任境界を事前に固定する。
例:クレジットスコアリングAIにおいて、モデルが有効に機能する「入力分布の許容範囲」や「分布外データ(OOD)の棄却条件」をあらかじめ定義し、逸脱時は自動で判断を拒否する。
Ledger(台帳): 計算の領収書を改変不能に保存する。
例:入力データ、モデルのバージョン、適用された閾値、当時の判断ロジックをセットで記録。これがないと事後の説明は客観性を失います。
Verify(検証): 第三者が再計算で検証する。
例:規制当局や監査人が、保存されたデータを用いて当時の判断を独立して再現・検証できる状態を担保する。
典型的な誤解(FAQ)
「Explainabilityを入れれば説明責任を果たせる?」
否。 理解を助ける技術と、責任を固定する構造は別物です。
「透明性(アルゴリズム公開)で足りる?」
否。 中身が見えても、当時の判断を再現・検証できなければ責任は証明できません。
「AI監査と同じ?」
否。 監査はガバナンスのチェックですが、説明責任は「個別の判断が成立・正当化されるための条件」です。
結論:本番導入で問われるのは「理解」ではなく「検証」
欧州のAI法(EU AI Act)では、高リスクAIに対して「説明可能性」を超えた「検証可能性と証跡(Traceability)」を重視する方向にあります。日本においても、経産省のガイドライン等で「説明責任」の重みがより強く要請される見込みです。
SHAPやLIMEでどれほど完璧に説明ができても、事故後に第三者が「その判断は正当だった」と客観的に再計算・検証できなければ、組織を守ることはできません。
社会実装の最終局面で問われるのは、もはや「人間がどう思うか(理解)」ではなく、**「事実として正しいプロセスだったと言えるか(検証)」**なのです。



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