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AIガバナンス認証の次に必要なものAIガバナンス認証が始まった今、次に問われるもの

執筆者の写真: kanna qed
kanna qed
8月19日
読了時間: 9分

―「体制がある」から、「その判断で本当に守られたことを検証できる」へ

2026年8月4日、日本ディープラーニング協会(JDLA)は、新たなAIガバナンス第三者認証制度「C認証(AI Governance Core Certification)」の運用を開始した。

C認証は、企業や自治体がAIを適切に管理・活用するためのガバナンス体制を、第三者として審査・認証する制度である。JDLAは対象となるコア事項として、「AIの把握・アセスメント・対応・担当組織決定」を掲げている。

これは、日本のAIガバナンスにとって重要な前進だと考える。

一方で、この動きが進めば進むほど、次の問いもはっきりしてくる。

組織としてAIガバナンス体制が整っていることと、ある特定のAI判断や実行について、そのルールが実際に守られたことは、同じなのだろうか。

本稿では、この「次の問い」について考えてみたい。

なお、筆者はAI判断の実行時検証を研究するGhostDrift数理研究所の代表であり、本稿の問題意識は筆者自身の研究と直接つながっている。その立場を踏まえたうえで、できる限り公的な文献に基づいて議論を進める。


▼関連するプレスリリースはこちら https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000182721.html


AIガバナンス認証と実行時保証
AIガバナンス認証と実行時保証

1.自己宣言から、第三者認証へ

AIガバナンスではこれまで、企業自身が、AI利用方針を定めている、リスク評価を行っている、担当部署を設けている、社内ルールを整備している——と説明するケースも少なくなかった。

しかし、自らルールを作り、自ら「守っています」と説明するだけでは、その信頼性を第三者が判断することは難しい。

C認証の意義の一つは、まさにここにある。

JDLAは、C認証によって「単なる自己宣言にとどまらず、外部の評価基準に基づく客観的なガバナンス体制の構築状況」を可視化すると説明している。また、体制整備を支援する認定コンサルティング企業と、認証可否を判断するJDLAの認証委員会を分離することで、公平性を確保する設計を採っている。

自己宣言から、第三者による確認へ。

これはAIガバナンスが社会インフラになっていくうえで、非常に重要な変化である。


2.しかし「体制」と「一つ一つの判断」は違う

ここで重要なのは、C認証が何を対象としているかである。

JDLAは公式FAQで、C認証について明確に、**「法人単位でAIガバナンス体制を審査・認証する制度」であり、「個別のAIツールやシステムではなく、組織としてAIリスクをどのように管理・運用しているかという体制を認証する」**ものだと説明している。

これはC認証の不足ではない。むしろ、認証対象を明確に定めた制度設計である。

そして、この区別から重要なことが見えてくる。

ある企業について、AIを把握する仕組みがあり、リスクアセスメントの手順があり、AI利用ルールが定められ、責任を持つ組織が決まっていることが第三者によって確認されているとする。

それでも、

ある日のある時刻に、このAIが行ったこの判断について、その時点で必要な条件が本当に満たされていたか

は、別の問いである。

「守るべき仕組みが存在すること」と、「特定の判断において、その仕組みが実際に機能したこと」は、区別して考える必要がある。


3.ISOも「組織」と「個別AIシステム」を分けている

この区別は、独自の考え方ではない。

ISO/IEC 42001:2023は、組織がAIマネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するための国際規格である。つまり中心にあるのは、organization-wideなAIマネジメントである。

一方、2025年に発行されたISO/IEC 42005は、AIシステムのインパクトアセスメントを扱う。

ISO自身が両規格の関係について、42001が組織全体のマネジメントシステムを構築し、42005が個々のAIシステムについて影響を特定・分析・文書化する方法を提供する、と整理している。そして両者を「high-level organizational oversight」と「practical, system-level evaluation」を結び付けるものと説明している。

つまり、すでに国際標準の世界でも、組織レベルのガバナンス個別AIシステムの評価は一枚岩ではない。AIガバナンスが成熟するほど、評価の解像度は細かくなっていく。


4.AIが「判断する」だけでなく「動く」時代に

そして現在、この問題をさらに切実にしている変化がある。AIエージェントの普及である。

従来の生成AIが 質問 → 回答 を中心としていたなら、AIエージェントは 判断 → ツール利用 → 外部システム操作 → 現実への作用 まで進み得る。

たとえば、AIエージェントが在庫データを参照し、発注判断を行い、サプライヤーのシステムへ発注を送信する。あるいは、ネットワーク監視AIが異常を検知し、自律的にルーティング設定を変更する。こうした場面では、「AIが何を答えたか」ではなく、「AIが何をしたか」が問われる。

2026年7月、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)が「AIセーフティに関する評価観点ガイド」を第1.20版へ改訂し、AIエージェント特有の評価観点として「観測と制御」を追加したのも、この変化を受けてのことである。

AIが外部世界に作用する以上、

「この操作を実行してよい条件が、実行時点で本当に成立していたのか」

を事後的に検証できることが重要になってくる。


5.世界のAIガバナンスでは「運用中の監視・検証」も重視され始めている

この方向はEU AI Actにも明確に表れている。

少なくとも高リスクAIシステムについて、AI Act第12条は、システムのライフタイムを通じてイベントを自動的に記録できるログ機能を要求し、その目的の一つとしてシステム動作のトレーサビリティを挙げている。

さらに第14条のHuman Oversightでは、人間が高リスクAIシステムの動作を監視し、異常や予期しない性能を把握できることに加え、特定の状況ではAIの出力を無視・上書き・反転したり、システムそのものへ介入し、安全な状態で停止できることを求めている。

そして第26条では、利用者側にも高リスクAIシステムのoperationをmonitorすることを求め、リスクがあると考える合理的理由があれば、関係者・当局へ通知するとともに利用を停止することとしている。

ここで要求されているものは、単なる「AIポリシーの存在」ではない。記録する。監視する。異常を検知する。必要なら止める。 という、運用そのものへの接続である。

米国NISTのAI Risk Management Framework(AI RMF)も同様に、AIリスク管理をAIシステムのライフサイクル全体を通じてcontinuousかつtimelyに行うべきとし、deployment後の継続的な追跡・監視を求めている。Governしたから終わりではない。 Governしたもの

を、Mapし、Measureし、Manageし続ける構造になっている。


6.次に必要になる「実行時アシュアランス」

ここまでを整理すると、少なくとも三つのレイヤーを区別できる。

レイヤー

問うこと

Governance

組織として何を守るのか。誰が責任を持つのか

System Assessment

このAIシステムにはどのようなリスク・影響があるのか

Execution-time Assurance

この具体的な判断・実行は、必要な条件を満たしているのか

前二つは、C認証やISO/IEC 42001、ISO/IEC 42005などによって制度・標準化が大きく進み始めている。

そしてAIエージェントが外部世界へ作用するようになるほど、三つ目の問いが重要になる。

本稿では、これを便宜上**「実行時アシュアランス」**と呼ぶ。

たとえば、AIがデータを外部へ送信する、AIが物流計画を採用する、AIがネットワーク設定を変更する、AIの判断を企業が正式な業務判断として採用する——といった場面である。

必要なのは、単に「AIガバナンス方針がある」という確認ではない。対象となる行為について、必要な条件と証拠がその時点で成立していることを検証し、その結果を後から再確認できる状態にすること。 ここに、AIガバナンスの次の技術的フロンティアがあるのではないか。


7.認証とアシュアランスは競争関係ではない

だからこそ、C認証と実行時アシュアランスを対立させる必要はない。むしろ逆である。

組織としてガバナンスルールが定まっていなければ、**「実行時に何を検証するのか」**自体を定義できない。

そしてC認証によって、AIをどう把握するか、どのようにリスクを評価するか、誰が責任を持つか、どのような対応を行うか——という組織側の基盤が整えば、その内容を個別のAIシステムや判断へ落としていく余地が生まれる。

JDLA自身も、C認証を**「AIガバナンスの第一歩」**と位置付けている。「第一歩」が整備されるからこそ、その先を考えられる。


8.広島AIプロセスも、「原則」から「実装」へ進み始めている

この議論は、日本にとってもう一つ重要な意味を持つ。

2023年に日本が主導して始まった広島AIプロセスは、safe, secure and trustworthy AIを実現するための国際的なガバナンス枠組みとして発展してきた。外務省は2026年7月時点でも、広島AIプロセスの国際指針・行動規範の実装がG7を越えて拡大していることを説明している。

さらに現在は、OECD/GPAIによるHiroshima AI Process Reporting Frameworkへ展開している。

興味深いのは、2026年のOECDの議論において、国際的なreporting templateだけでなく、assurance mechanismstesting and evaluationといった仕組みも、各国のAI政策を補完するものとして議論されていることである。

つまり、「信頼できるAI」という原則を掲げる段階から、何を報告するのか。何を評価するのか。どのように確かめるのか。 という実装の問題へ、国際的な議論そのものが進み始めている。


9.「ルールを書く」から、「守られたことを検証する」へ

AIガバナンスは、これから不要になるのではない。むしろ、これから本格的に必要になる。

C認証のような第三者認証が普及し、組織として守るべきルールが明確になるほど、次に問われるのは、

そのルールが、一つ一つのAI判断において本当に守られたのか

になる。

組織のガバナンス。個別AIシステムの評価。運用中の監視。実行時の検証。そして、後から第三者が確かめられる証拠。これらは競合するものではない。むしろ一つにつながることで、初めてAIガバナンスは現実の業務へ降りていく。

筆者が代表を務めるGhostDrift数理研究所では、この「実行時アシュアランス」のレイヤーに取り組んでいる。具体的には、AIの判断根拠・確認状態・停止条件・責任記録を、処理後も検証可能な形で保持する技術基盤「責任OS」と、その判断過程を第三者が事後確認できる証拠として残すアシュアランス技術「ADIC」の基礎理論を、定理証明系Lean 4で形式化し公開した。

AIガバナンス認証が日本で本格的に始まった今だからこそ、その次の問いを考える時期に来ているのではないだろうか。


主要一次文献

  1. 一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)「C認証|AIガバナンス第三者認証制度」 C認証の対象、法人単位であること、個別AIツール・システムを認証対象としないこと、コア事項、「AIガバナンスの第一歩」という位置付け。

  2. JDLA「AIガバナンス第三者認証制度を創設『C認証』を8月4日から運用開始」 2026年8月4日の制度開始および制度目的。

  3. ISO/IEC 42001:2023 / ISO/IEC 42005:2025 組織全体のAIマネジメントと個別AIシステムのインパクト評価の関係。

  4. AIセーフティ・インスティテュート「AIセーフティに関する評価観点ガイド 第1.20版」 AIエージェントの普及を踏めた「観測と制御」、自律的挙動、外部環境との相互作用の追加。

  5. Regulation (EU) 2024/1689 — EU AI Act, Articles 12, 14, 26 高リスクAIのログ、Human Oversight、動作監視、介入・停止、deployersによる運用監視。

  6. NIST AI Risk Management Framework 1.0 / AI RMF Playbook GOVERN / MAP / MEASURE / MANAGE、ライフサイクル全体での継続的リスク管理、post-deployment monitoring。

  7. OECD/GPAI Hiroshima AI Process Reporting Framework / 外務省「AI Diplomacy」 広島AIプロセスの実装、AIガバナンス・リスク管理の透明性報告、assurance mechanisms、testing and evaluationへの展開。

  8. GhostDrift数理研究所「AI判断を後から確かめる『責任OS』基礎理論を情報学とLeanで公開」 責任OS・ADIC・ALSの概要、Lean 4形式化、特許出願。

 
 
 

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